9月20日(月)
『行事での子どもの活動と支援について』
2学期には体育祭や学習発表会など大きな行事の行なわれる学校も多いのではないだろうか。そして、そこでの一人一人の子どもの活動内容がしばしば問題となることはないだろうか。さらに、子どもたちがそれぞれの種目や演技を行なうに当たって、教師はどのような具体的な「支援」を行なっていくかも同時に課題となってくる。
話はかわるが、「教師の欲目」ということばがある。教師は、子どもの可能性を追求することが大きな任務のひとつであるといえる。その場合に、筆者の経験から言えることとして、大きな行事の際には、教師は自分の担任する子どもに設定した目標(可能性)と現状(実態)の間の開きについて、しばしばいとも簡単にあやふやにしてしまう事態が生じうる。どういうことかと言うと、子どもの現状についての認識がぼやけてしまい、目標であるべき、しかも数レベル上の活動に目前の行事において取り組ませようとしてしまうのである。行事といったような華やかな場では、子どもについつい数段高いレベルの活動に取り組ませたいという教師の願いが出てくるのである。このような願いは、教師としては、ある意味では普通なのかもしれないが、しばしば子どもを追い詰めてしまう事態を生じさせているのは事実である。例えば、体育祭の種目で「かけっこ」に取り組む場合を、あくまで子どもが行事の主役なんだという視点から(もちろん、教師が行事の主役とは到底考えられないが)考えてみよう。子どもの身体機能や認知機能などさまざまな機能の発達状況から、あるいは障害の特性によって、現在は直線コースをゴールまで走ることが目標の子どももいるだろう。あるいは、直線コースの先にあるゴールまで一人で歩いていくことが目標の場合もあるだろう。また別の子どもの場合には、グラウンドのトラックに沿って一周を力いっぱい走ることが目標である場合もあるだろう。同じ学年集団の中でも、一人一人の子どもの現状を踏まえた目標にはさまざまなものが見出せる。現状を踏まえたこのような目標については、日ごろの体育などの取り組みでは、取り組みのステップを考え、それぞれ必要な具体的な支援のあり方を準備し、計画的に着実に実践がなされていることであろう。ところが、体育祭となると、直線コースの先のゴールにひとりで行くことが現状での目標であるはずの子どもについても、グラウンドをトラックに沿って一周走ってほしいとついつい担当教師が思ってしまう場合が生じやすい。理由はいくつもあるだろう。保護者の見ている前で、他の子どもと同じことに取り組ませてあげたい、そして、がんばっているようすを見てもらいたい、といったものが大きな理由のひとつであろうか。この場合、日ごろの体育などでの取り組みの場合になされる以上の「過剰な支援」が当然必要となる。「支援」とは、あくまで子どもの「主体的な活動を支えるもの」と筆者は考えているのであるが、「過剰な支援」の場合には、もはや子どもの主体的な動きはなく、体育祭の種目は「支援」をしている者(つまり、教師)が主となる動きになってしまいがちとなる。つまり、子ども不在なのである。そうなれば、「支援」は「支援」でなくなってしまう。教師が「支援」として行なうかかわりは、教師の自己満足を実現させる方法や道具に、そして体育祭はそのような教師が満足を得る場になり下がってしまうのである。
それでは、大きな行事への子どもの参加の仕方を教師が考える際の視点は何だろうか。これには大きく三つのものがあるのではないだろうか、と筆者は考えている。ひとつの視点は、それぞれの行事の位置づけを考えてみることである。例えば、体育祭であれば、日ごろの体育的活動の取り組みの成果を発表する場であったり、取り組みの経過を披露する場なのではないだろうか。かつ、一人一人の子どもは、それぞれの力に応じて演技ないし種目に参加すべきではないのだろうか。このような行事の位置づけ、ないし捉え方については、学校全体で確認を行ない、学校としての考えを整理しておく必要がある。
二つ目の視点は、子どもの現在の活動レベルや現在時点での目標を担任が再度確認することである。行事のなかでの演技や種目と関連して考えることで、種目や演技の中でどのような活動が子どもが主体的に行動できるものなのかを見極めることができるだろう。
三つ目の視点は、どのような具体的な支援が現在の目標の達成のために適切なものなのかを考えることである。この場合の「支援」とは、先に書いたように、あくまで「子どもの主体的な活動を支えるもの」という意味である。現在の目標に向けた支援が重要なのである。したがって、数段上の目標が設定されるなら、「過剰支援」がなされることになり、子どもの主体性はあやふやになってしまうことが充分に考えられる。そのばあいの「支援」は「支援」ではないと考えてよい。
ここに紹介したそれぞれの視点から体育祭や学習発表会を考えていくなら、そこでの子どもの活動は主体性のある、いきいきとしたもの、つまりその子らしいものとなってくるだろう。その活動自体が、たとえ昨年度のそれとよく似た活動であったとしても、そこには「支援」によって子どもが「主体的に活動する力」を確実に身につけていっていることを見て取れるはずである。教師はそのような、たとえわずかであっても、進歩をしっかりと見て取らなければならない。そして、そのような変化(進歩)の持つ意味を保護者に説明する義務がある。行事と言えば、つい目に見える活動のあり方はどのようであるべきなのか、どうあればいいのか、といったことにとらわれてしまいがちである。そこには、みんなと同じことに取り組ませたい、がんばればみんなと同じことができることを見てもらいたい、といったような「教師の欲目」から発する考えが出やすくなる。我々教師が忘れてはいけないのは、行事の主人公は一人一人の子どもであり、我々教師や大人はそこでの活動において子どもをどのように支援していくかということである。さらに言うなら、日ごろからの目標に向けた計画的な取り組み(目標の設定やスモールステップの設定、さらにそれに向けた取り組みにおける具体的な「支援」のあり方)を大切にしていかなければならないということである。